何を使って録音したらいいの?
結論から言ってしまうと、録音機材は何でも良いのです。とにかく今の音が失われてしまう前に記録してみることです。ですから、この音を録るためにはこの機材という紹介の仕方はしません。各機材の長所・短所から何に向くかということをお話しましょう。
レコーダー
今一般的に考えられるレコーダーはカセットテープレコーダー・DAT・MDの3種類です。これらの特徴を見てみましょう。
- カセットテープレコーダー
アナログ記録方式の最大の利点は過大入力時に穏やかに歪んでいくということです。デジタル式録音機はレベルオーバーになるとあからさまに歪んでしまいます。ところがカセットテープの場合には徐々に歪みが強まって行き、やがて飽和してしまうような歪み方をしますから少々のレベルオーバーは許容出来ます。いつどんな大きさの音が出るか予測しにくい生録の(特に音鉄)場合にこれは結構大きなメリットになりますし、最初は失敗しにくいです。ただし、ノイズが多めで、録音機個体の互換性が低いのが最大の欠点です。自動録音や生録のための機能が良く練られた機種が比較的豊富な点は魅力でしたが、どんどん製品ラインナップから外されてしまいました。もし家庭に有れば、まずは気軽に楽しんでみるのに良いでしょう。
- DAT
一時は注目を集め、各社から多数の機種が発売されていたDATも民生用の機械新品では入手できなくなってしまいました。プロオーディオの世界では良く使われていましたが、今ではテープも限られています。
最初からマイクやライン入力の録音を想定して作られているだけあって、さすがにADコンバーターもしっかりしていますし、音質という面では有利でしたが駆動部分の故障等の不安を考えるとこれからは選ぶ理由が無くなりそうです。
SONYのTCD-D100という機種は軽量・コンパクトで機動力抜群な点が大きな魅力でした。
- MD
小さく、頭出しが早くて編集が楽なMDは常時携行が苦になりませんから常にポケットに忍ばせておき、「録りたい」と思った時に録れるということが最大の利点でしたが販売機種は殆ど無くなってしまいました。
出先で手軽に編集出来る点が非常に生録向きだったのですが致し方ないところです。
民生用ポータブルMDにはデジタルアウト端子が装備されている機種が殆どありません。もしもCDやWEBページ公開のためにパソコンに取り込む機会があるならば、是非据え置き型のデジタルアウト端子装備のMDデッキを用意したいところです。パソコンへの取り込みはアナログ端子経由でも可能ではありますが、せっかくの高音質ですから余計なDA/AD変換を経由せず、ノイズの乗らないデジタル伝送にチャレンジしてみてください。
MDを使うメリットの一つにタイムスタンプ機能があります。MD本体に時計が内蔵されており、録音を開始した日時をトラックごとにディスクに記録してくれる機能です。音鉄の場合、一旦録音を開始するとなかなか手が離せないもので、ついついメモも忘れがち。そんな時にこの機能が大変に役立ちます。ところが、機種によってはこの機能(本体の時計機能も)が省略されていますので、購入時にはカタログ以外のこういった機能も良くチェックしてみましょう。
- デジタルオーディオレコーダー
2010年の今の流行はやはりデジタルオーディオレコーダーでしょう。
各社から様々な機能を持った機種が発売されていますので選ぶのに最も迷うのがこの分野だと思います。
ファントム供給可能なキャノン端子を供えた本格的なものから音楽プレイヤーのボイス録音機能まで様々です。
ただし、残念なのはTOCの編集が出来ない点です。
せっかくのデジタルメディアなのに生録ではメモ帳と鉛筆が手放せない...MDのようにメディアに直接メモ出来れば良いのですが。
- パソコン
最近はノート型PCも飛躍的に性能が上がり、処理速度もさることながら、豊富な外部との接続端子やバッテリーの駆動時間といった面でも
改善されて来ています。
しかしながら、オーディオインタフェースに関しては相変わらずのお粗末なものしか備えられていません。
USB経由で接続出来るオーディオインタフェースも種類が増えて来ていますので、それを使えば高品位な録音が望めそうです。
まだまだファントム電源の使えるマイク端子を備えたバッテリー駆動型のインタフェースといった生録向きの製品は殆ど見あたりませんが、
コンデンサー型マイクを使用しない、あるいはDATやMDをDACとして利用するならば、編集時にわざわざDATやMDなどの
メディアからHDDに落とす作業が不要となりますので管理上、編集上とても便利になります。
マイク
エレクトレットコンデンサータイプのワンポイントステレオマイクが最も手軽で確実で設置も簡単ですから最初に選ぶのならばこのタイプが良いと思います。ただし、ワンポイント故の融通のきかなさや限界がありますので、その限界を感じるようになったら他の方法を研究してみるのも良いと思います。マイクロホンはピンからキリまで、値段も数千円から数十万円まで実に様々です。ところが値段が高いから良いかというと、そうでもなく特に音鉄のような厳しい環境での収録では特性の善し悪し以外にも様々な選択要素があります。
不思議に思われるかもしれませんが、高くて特性が良い=良い音鉄とはならないのが面白さであり醍醐味でもあります。
また、音鉄と言ってもその対象は様々で、車内音はもとより通過音や駅のアナウンス、改札の鋏音までそれぞれにの目的に適したマイクがあります。
- ワンポイントステレオマイク
1本のマイクに2つのユニットが仕込まれていて1本でステレオ録音出来るタイプです。レコーダーのマイク端子に繋げるだけで録音出来ますから非常に手軽です。価格も数千円からあります(上を見ると十数万円程度)ので気軽に購入出来ます。MDレコーダーを発売している各社から発売されているようですが、SONYやAUDIOTECHNICAの製品が代表的で入手しやすいようです。小さくて目立たないのでメモ録や車内の録音に便利です。
ATM9440
お手軽で作りもしっかりしていますが、このマイクは下の方(低い周波数)があまり録れませんし、ハンドノイズ(マイクの胴体を触った音が録音されてしまう)対策がされていません。マイクのセッティング時にはマイクに物が触れたりしないよう特に注意しましょう。
S/N比があまり良くなく、常に大きな音がしているような収録ならばあまり気にならないかもしれませんが、列車通過音の収録等の静かな時間のある収録にはおすすめ出来ません。
ECM-S959C
ATM9440より大分大きくなりますが、単3電池で動くことや、もう少し性能がいい点はオススメです。
音鉄分野での愛好者が断然多く、実績もありますのでオススメの1本です。
ECM-999
かなり大きなマイクなのでちょっとした覚悟が必要です。48Vのファントム電源または内蔵電池駆動です。MS方式ステレオといって、正面を向いたマイクと側面に感度があるマイクが内蔵されており、それぞれの信号をミックスしてステレオ出力にしています。
ケーブルはキャノン型で、フォノに変換するアダプターが付属します。
ECM-717
このマイクロホンは値段や造りの割に結構音が良く、常時携行用途として非常に使いやすいのでお薦めです。胸ポケット等に止められるクリップが付いていて、さりげない収録にはもってこいです。
車内での収録の場合、MD+ECM717のシステムならば殆ど他の乗客に意識させることがありません。付属のクリップでカバンに取り付けて足下に置いておくと、結構床板からの床下音がうまく録れます。
電池(LR44)駆動の他にプラグインパワー方式にも対応しています。
ただし、携帯電話の電磁波ノイズを拾いやすいので車内走行音等の収録では注意が必要です。
他にはAT822あたりがお薦めです。業務用のマイクロホンにはSHUREのVP88とかAudiotechnicaのAT825等があります。
- コンデンサー型マイクロホン
一般的にダイナミック型に比べて周波数特性がフラットで感度も高く高価(数千円〜数十万円)ですが、デリケートで衝撃や湿度に弱く、風音も拾いやすいので使う条件を選びます。
雨天時や風のある時にはまずそのままでは使用できません。テレビの生中継で「音声さん」が持っている竿の先に付けられたフサフサの毛で覆われたネズミ色のカプセル状の物体はマイクを風から守るためのウィンドジャマーと呼ばれるもので、屋外で風の有る時にこのタイプのマイクを使おうとする時にはあれ位大袈裟な装備になってしまいます。
このタイプのマイクはレコーダーからマイクケーブルによって供給される「ファンタム電源」という動作用電源を必要とすることが多いのですが、中には内蔵電池で動作するものもあるようです。
ファンタム電源供給機能を持ったレコーダーは非常に少ないので、レコーダーとマイクの間に設置する電源装置が必要になり、その点でも装備が大袈裟になってしまいます。
余程の覚悟が無い限り音鉄に使用することはあまり無い(ワンポイントステレオ型のコンデンサーマイクを除いて)と思いますが、趣味が高じると使ってみたくなるのが人情というもの。高じちゃった方、是非是非チャレンジしてみてください。
AT9440やECM-S959C等もコンデンサー型(エレクトレットコンデンサー型)です。
AKG C1000S
AKG C391b
AUDIO TECHNICA ATS410
RODE NT3
等の比較的安価なものから
NEUMANN U87
AKG C414
等の結構高価なものまで実に千差万別。様々な特色と性能、形式のものがあります。
- ダイナミック型マイクロホン
強力な永久磁石とコイルと振動板で構成され、丁度スピーカーと同じような構造をしています。頑丈で大音圧にも耐えますが、用途によって(ヴォーカル用のもの等)は低域や高域をカットしたような特性になっている場合があります。動作のための特別な電源を必要とせず、録音機を選びません(一部プラグインパワー型マイクしか使えないという録音機もあるようです)。低域をカットした特性は微風時にはかえって都合がよい場合もありますので、用途に応じて試してみると良いでしょう。
ただし、ダイナミック型の中には交流区間で架線のハムノイズを拾いやすいものもあります。架線に大電流が流れると、それに伴い磁場が発生する訳ですが、マイクのコイルの中を通過するとコイルに電流が流れ、これがハムノイズとなってしまう現象です。コンデンサー型は比較的こういった影響を受けにくいようです。
AUDIX D-1
これで鉄道の音を録っている人はまず居ないと思いますが、あまり低い周波数は良く録れないけれども結構爽やかな音で録れるので対象によっては使えます。風にはムチャクチャ弱いです。
SHURE SM57LC
本来ライブPAなんかに楽器用として使われるのですが、セッティング次第では結構使えます。かなりタフなのも魅力です。ウィンドスクリーン(ただのスポンジのカバー)は外録の場合には必須です。比較的対象に近付いたセッティングが良いのですが、ダイナミック型ハイパーカーディオイドの割には空気感みたいなものも録れてたりします。
国会中継やホワイトハウスで大統領が何か発表しているシーンで見ることが出来まる、あの本並べてセッティングされた黒いマイクです。
AUDIX OM-5
これも本来ライブPAなどでヴォーカルに使われるマイクです。少々重くて大きいですが、比較的吹かれ強く、スッキリとした感じの音が録れます。
意外に感度も良くて、筆者は車内走行音収録等にも良く使っています。
その他
とりあえずはマイクロホンと録音機(レコーダー)があれば録音は可能なのですが、あると便利な周辺機器も御紹介しておきましょう。
- マイクロホンスタンド
カメラ用の三脚にマイクロホンをセットすることも可能です。この場合には変換ネジが必要です。この変換ネジ、大きな(マイクロホンを売っているような)楽器屋さんか、トモカ電機のようなプロオーディオショップじゃないとなかなか置いてありません。マイクロホン側は大抵がシュアーネジかAKG(アーカーゲー)ネジです。
本格的に腰を落ち着けた録音をしようとするならばマイクロホンスタンドが欲しくなります。ただしこのマイクロホンスタンド、はっきり言ってかなり重いです。また、ステレオペアを使う場合にはSONY等から発売されているステレオブームが必要になります。SONYの場合、ステレオブームのネジがまた特殊ネジで変換が必要となり、かなり小物が増えてしまいます。
- ウィンドスクリーン
特に屋外での収録の場合には風の影響が気になります。この風を防ぐためにスポンジ等で作られたウィンドスクリーンをマイクロホンに被せることになるのですが、高域が減衰するといった副作用がありますので、可能な限り使いたくないところではあります。とは言ってもボソボソという風音(ポップノイズと言う)は非常に不快ですので屋外の場合には用意しておくべきでしょう。
- サスペンションホルダー
特に車内での収録の場合、床からの振動が問題になることがあります。マイクロホンを手持ちする場合にはハンドリングノイズ(マイクロホンを触る時にマイクロホンの筐体を通じて発生するノイズ)に注意しなくてはなりません。これらのノイズを遮断するためには通常のマイクロホンを剛に保持するホルダーではなく、ゴム等の弾性体を介して保持する特別のホルダー(サスペンションホルダー)が効果的です。ただし、これらのノイズはマイクロホンの筐体だけでなく、ケーブル等を通じても進入しますので、柔らかいケーブルを使用する等の手段も併せて講じると効果的です。
棒状のマイクロホン用のサスペンションホルダーはAudioTechnicaやSONY、AKG等から発売されています。
- ヘッドホン
案外見落としがちなのがこのヘッドホン。良い録音は良いモニターからです。是非良いヘッドホンを探してください。
私の愛用はアシダボックスの「特スタジオ用」とAKGのK270S。
モニター用ヘッドホンに求められる条件は、特性に味付けが無く、遮音性能が高いこと。音鉄の場合、正に録音対象音が直接耳に入る環境の真っ直中でモニタリングする必要があります。この時にモニタリング音が環境音からきっぱりと分離されて聞こえるのがベストです。そのために必要なのは頑丈で遮音性の高いヘッドホンです。通常電機店やディスカウントショップ等の店頭に多く見られるのはセミオープンタイプのヘッドホンです。セミオープン型ではモニタリング音に環境音が混ざり、「どのように録音されるのか」が判断しづらいのです。その点「特スタ」やK27Sはかなり都合が良いのです。ただし、このヘッドホンを置いている店はあまりありません。(私は渋谷の東急ハンズの5Fで「特スタ」を購入しました。)
他には、私の個人的な感想ではAKGのK270ST(大きな楽器屋さんで比較的に入手可能)や、入手しやすいところではオーディオテクニカのATH−A7x、ATH−A9xあたり(ただし頭当てが壊れやすい)あたりがオススメです。でも結局のところ、耳の特性や性能、好きな音は人それぞれですから、試聴しまくって「お気に入り」を探しましょう。それと、ヘッドホンは使い込むと音が変わることがあります。最初のうちは神経を逆撫でするようなとんがった音なのに、使い込んで1週間位で「とてもよい」音に豹変したりします。新品をいきなり持ち出すよりも普段から慣らし運転(エージングと言います)しておきましょう。
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