ベースについてのおハナシ(その2)
さて、散々苦労して塗りなおしたハードパンチャーですが、イマイチ表面が綺麗ではありません。
きっと下地処理を手抜きしたせいだろうな。そもそも、生地状態の時に可能な限り滑らかで綺麗にしておかないとそれが後々まで尾を引くようです。320番程度の仕上げまで面倒臭がらずに丁寧にやっておくとその後の工程が随分と楽になるらしいということを実感した次第。
で、もう1回全て剥がして生地の仕上げからやり直せばそれはまぁ、それに越した事は無いのですが、またモクモクと手抜きの悪魔が起き出して「厚めにクリアー塗ってあとは水研ぎでごまかしちまいなよ」と囁きます。で、ベーシストは一般的に他人の意見を素直に聞くのでついつい悪魔の意見も聞いてしまいます。
ともかくもう一度クリアを上塗りしよう...ということにしたのですが、クリアスプレーが手許にありません。でもビン詰めのクリアラッカーは在庫が沢山あります。これはもう刷毛塗りするしかありませんね。
結局アクリルラッカーで着色し、アクリルクリアラッカーで仕上げた塗装の上からニトロセルロースラッカーを刷毛塗りすることになってしまいました。
ところがこの刷毛塗り、相当に高度な職人的技術を要するのです。特にラッカーは完全に乾燥しても溶剤ですぐに溶けますから重ね塗りは厄介なのです..ということを知ったのは塗り始めてすぐでした。つまり手遅れってことですね。
圧塗りされた塗料は見事に溶剤に侵されて溶け出し、ベロンベロンになっています。おまけに何故か所々上塗りしたクリアが弾かれて深い溝のようになっています。つまり大失敗の上、状況は更に悪化してしまったということです。後の祭りってことです。この事態を切り抜けるには取り敢えず乾燥させてからまたあの地獄の紙やすりがけ作業をやるしかありません。ハードパンチャーならぬ度重なる衝撃にパンチドランカー状態です。そうだ、今度からパンチドランカー君と呼ぼう。
そうこうしているうちに調子に乗って何本かオークションで競り落としたベースが我が家にやって来ました。そいつらに共通して言えることなんですが、デジカメで撮られた映像を見る限りはなかなか綺麗でもうそのまま弾いた方がイイかな?と思えたのに現物はさにあらず。結構草臥れが目立ちます。だから、オークションでモノを買うときにはあの小さな画像での見た目を信じてはいけません。
我が家に来た2本目はボディーのみのジャズベでした。
どうも新品らしく、キズも無くムチャクチャ綺麗です。余計なことをせずにそのままおムコさん(ネック)を調達して結婚させ(組み立て)て弾いた方が絶対に良さそうなのですが、やっぱりやっちゃいました。
また例によってカミさんに怒られながら硬くてぶ厚いウレタン塗装をペーパーで剥がしてみるとそこに現れたのは何と5ピースのボディー!小学校の下駄箱のところにあるスノコ程の幅の板が張り合わされてあのジャズベの幅にされているではありませんか。まるで間伐材で作ったみたいで、これなら貴重な大木を伐採することもないしエコロジーの観点からは歓迎されるべきことかもしれないなぁと妙な感心をしつつじっくりと生地を観察すると妙に黒ずんでいたり木目がバラバラだったりでどうも同じ種類の材で揃えられているのかどうかさえアヤシイ感じです。銭湯の裏に積んである燃料用建築廃材を失敬して来て張り合わせたみたいな感じなのです。おまけに生地の状態で無数のキズや凹みがあり、それが目止め材(トノコ?)で埋められた形跡があり、アバタだらけ。まるでフランケンシュタインのような様相でこの状態で組み立てて弾いたら「フンガー」という音が出て来そう。
綺麗なお化粧を落とすと地は...見てくれよりも内面を磨くことが大切だという人生の教訓を与えてくれたボディーでした。
それにしてもベーシストは一般的にデリケートでナイーヴで心の優しい人種ですからその精神的衝撃は大きすぎ、おかげでこのフランケン君は一気に筋肉痛を倍増させてくれました。
フランケン君の次にやって来たのはフェルナンデスの白いPJタイプ。何とネックまで白く塗装されています。これがまたストックの状態で弾いて見ると全く響かない楽器でした。生で弾いても弦が直接空気を揺する音は微かに聞えるけど弦の振動がネックやボディーに伝わっている様子が全くありません。
あまりの鳴りの悪さに却って興味をそそられるのが一般的に探究心旺盛なベーシストの性というものです。
今回筋肉痛を少しでも抑えるために導入した秘密兵器である剥離器具を使ってみることにしました。ショウガをおろす下ろし金(オロシガネ)に取っ手をつけたような道具で、無数にある爪が肌を引っ掻いて剥がして行くという、単純だけど白いフェルナンデスのこの子もこれで引っ掻かれたら3分でイナバのシロウサギ状態になってしまいそうな何やら恐ろしげな道具です。
無常にも白い素肌に爪を立てて思い切り引っ掻くのですが.....ツルツルと滑るばかりでちっとも剥がれないじゃぁありませんか。
塗装の表面が相当に硬いらしいのです。それを意地になって更にしつこく引っ掻いていると、角やキズの部分で歯が引っかかってようやく剥がれ出したのですが、その様子がまた恐ろしい。剥がれるというよりはガラスのように割れて飛び散るという感覚でしょうか。顔にペチペチと角の立った破片が当たって筋肉痛に加えて新たな快感、いや苦痛が襲います。
断面を観察すると0.5ミリ位ありそうな極厚の塗膜が確かに割れて飛び散っているような剥がれ方をしています。これだけ厚くて丈夫な塗装ならば確かに少々ぶつけてもキズつかないだろうし湿度や温度の影響も受け付けないだろうしこれはこれで技術的に素晴らしいことなんだろうなぁと逆に感心してしまいました。結局3分どころか3時間かかっても丸裸には出来なかった身持ちのカタい白ウサギだったとさ。
で、全部剥がし終わってみるとこれまたビックリ!
ボディーは何と7ピースで表面と裏面には駅弁の蓋というか、高級納豆が包まれている薄い木の箔みたいなものが貼られてその7ピースの合わせ目を隠蔽しているじゃぁありませんか。厚いボール紙の片面に木の極薄の板を張り合わせてパッと見には高級な木製の蓋に見せるという駅弁の手法に似ています。これならば縁の部分が不透明な黒に塗られるサンバースト系の塗装ならば7ピースの継ぎ目は全く表からは解からないので、素直で純朴なベーシストに「おぉ、この価格でワンピースボディーかぁ?」と思わせることが出来ます。
しっかし、ボディー材なんかもう殆ど角材です。でもそのアイデアと構造というか...安い材料でらしく仕上げるというとっても日本文化的なテクニックにまたまた感心してしまいました。それと、良く家具なんかで見かける集成材に近いものがあるから狂いが少ないかもしれないってのは良く言い過ぎ?
このエキベン君は塗装剥がしにムチャクチャ苦労しました。塗料の材質が違うのか、その削り粉は舞い上がると家の隅々にまで飛んでいき、テレビの画面なんか白いスモーク状態になってしまいました。勿論カミさんに発覚する前に拭いておいたのは言うまでも無いこと。おまけに掃除機で吸うとすぐにフィルターが目詰まりして「めづまりサイン」が点燈します。
そんなエキベン君もパンチドランカー君の教訓を活かして念入りに下仕上げの後、クリアー→水研ぎ→色塗装→クリアー数回→水研ぎ→コンパウンドの工程を経るとビックリするような仕上がりで大満足です。
ここまで服を脱がすというか、化粧を剥ぐというかチョットエッチな作業をやって来てみて思ったのは....
(1)安い楽器にナチュラル仕上げが無い理由が良〜くわかった。
(2)ぶ厚い塗装が楽器本体の鳴りを悪くするということを実感した。
(3)日本文化的パチモノ作りの底力を知った。
(4)高い楽器が何故高いか.....身に沁みた。
(5)安いものでも20年も経過していると材の乾燥が進んでいるのか生地状態でビンビン鳴る。
(6)調子に乗って買い込み過ぎると置く場所が無くなってカミさんに怒られる。
(7)アンプに繋がない状態での鳴りの良し悪しって実際バンドの中で影響あるんだろか?
まぁ、そういった事はともかくとして、徐々に仕上がっていくのは理屈抜きに楽しいものです。
最後にクリアーを吹き、筋肉痛覚悟でコンパウンドで磨いて行くとだんだんと表面が鏡のようになり、とても深みのある美しいツヤになります。1〜2週間位じっくりと乾燥させてパーツを組み付け、出て来る生音はもうサイコーです。
もし興味があったらやってみるとイイと思いますよ。ただし、少なくとも毎日曜の作業で3ヶ月位はかかる覚悟で臨むこと。咳いては事を仕損じるとは良く言ったモンです、ハイ。
◆ベースの調整
さぁて、随分と日が経ってしまったが、その後はベースの着せ替え遊技をやっていない。むしろ着せ替えたベースの維持・調整に凝って来ているのだ。これは、難しいようでいて、やれば出来るが、キチンとやるのはやっぱり難しいのだ。何だかよく訳がわからないが、やる事自体はネジを回すことだから、教えればサルにでも出来るかもしれない。でもただ回しゃぁいいかってぇと全然そうじゃないんだな。理屈が解らずにネジ回していると事態はどんどん悪い方へ向かって行き、最悪ベースが再起不能になってご臨終ってことになる。
まずは、ネックの反りから調整してみた。これは解りやすい。1フレットを軽くフレットに触れる程度に押さえて、同時に20フレットも同様に押さえると、ネックが手前の方に反っていると1フレットと20フレットの半分の位置では弦とフレットの間に隙間が出来る。この状態を順反りと言うらしい。つまり素直な反り方ということだな。で、その反対だと20フレットを押し下げていくと弦が20フレットに触れる前に他のフレットに触れてしまう。この状態は逆反りというらしい。素直に弦に引っ張られて反れば良いものを逆らってギャクに反っちゃったんだね。
順反りだとローポジションは良いのだが、ハイポジションに行くに従ってビビるようになり、それを避けるためにブリッジのコマを高くするとやたらと指板と弦の距離が離れてしまう。これを「弦高が高い」というらしい。逆反りだとまぁその反対でローポジがビビりやすくなるんだが、ビビらないように弦高を上げなけりゃならないのは同じこと。
で、どのフレットも同時にパツッと触れるようにまっ平らに調整すれば良い訳だけれどもこれが結構難しい。ネックを外さないとトラスロッドを回せない楽器はものすごく手間がかかる。「ネックを外す」->「トラスロッドを回す」->「ネックを付ける」->「チューニングする」->「弾いてみる」というのを延々と繰り返してやらないといけないのだ。
そして、回し加減も大切で、ロッドに捻り応力を残さないように回してからチョット戻すのがコツなんだな。説教の後にちょっとなだめることによって禍根を残さない人生教訓といっしょだね。
つまり、フレット面で完全にまっ平らになるように出来れば極限まで弦高が下げられる理想の状態なんだが、フレット面の高さには誤差があるだろうし長年弾いていりゃ良く押さえるフレットが減って高さが下がる。だからその辺りで妥協点を探さないといけない。更に、ネックは湿度や温度によって反り具合が変わるからそのあたりのマージンを見込むとすると若干順反り状態にしておいた方が良いみたいだ。だって毎日毎日、年中ネックを外したり付けたりする訳に行かないもんね。
絶対に反らないネックってのがありゃぁイイんだろうけど、音が良くて反らないなんて都合のイイもの無いよね。
そして、反りが決まったら今度は弦高の調整。最初は低めにセットして1本づつだんだんと高くして行き、弾く強さとビビりの出方で妥協点を探して行く。そりゃ強く弾いた方がやさしく弾いた時よりビビり易いでしょ?で、自分がどこまで強く弾くか、その時にどこまでビビりを許すかというのである程度決める。
あんまり弦高を高くすると押弦時に力が要るから指が痛くなるし、運指がやりにくくなる。おまけにスラップのプルで「ゲーンッ」という音を出させるためには余計に強く引っ張らないといけなくなる。かと言ってあんまし低くし過ぎるとジンジンとビビりまくって気分悪いよね。だからその妥協点は演奏者それぞれによって違うんだと思う。人生と一緒で妥協点を見いだす、いわゆる「折り合いを付ける」ってのが難しいんだな。どこで折り合いを付けるかは人それぞれ、みんな自分のギリギリってもんが有るんだから、結局のところは自分で調整出来た方が良いんじゃないかと思う。
良い楽器は精度が高いらしく、低くセット出来るから弾くのが楽だし、狂いにくいみたい。
で、そうやってせっせと調整してると弾いてみたくなるよね。弾けば弾く程上手くなるだろうし、細かいことにも気を遣うようになる。自分のような自分に優しいヤツは面倒な事はサボり気味になるんで..いいかもしれない。
もし暇が有ればその3へ
※1 「競り落とした」と威張る程高価なものじゃない。
どれもみな安物ばかりなのだ。
※2 進んで苦労を背負った上に見なくても良い内面の醜さを知ってしまう。
お友だちの恋の悩み相談に乗った挙句に交換日記まで見せられた
みたいなもん...かナ?
※3 。
※4 。