ベースについてのおハナシ



最近の音楽の世界では、音楽を演奏するということが非常に多くの手段で行われるようになって来たために、演奏者の分類もどんどん増えて来ていますね。例えば、ロックバンドだったらギターとベースとドラムとボーカル(オプションでキーボード)という非常に解かりやすい構成があって、それぞれギタリスト、ベーシスト、ドラマー、ボーカリストという担当者分類で全くノープロブレム。実に解かりやすかったんですね。ところが最近じゃぁ演奏に関わるヤツが増えて来て、サンプラーだのDJだのコンピュータープログラミングだのようワカラン職業が出て来ました。そういう混沌とした実にコンフュージョンな世の中にあって、今も頑なに昔と変わらずベーシストはジャンケンで負けて決まるというのがベーシストの爽やかで素敵なところでしょう。(※1)
さて、私がベースを弾くことになったのは、そもそもベースを持っていたという実に爽快な理由からです。そのベースというのはメーカー不明のショートスケールで、最初の持ち主がギターケースに入らないという理由でボディーの下のほうをノコギリで切っ飛ばしたというとても可愛そうな楽器でした。おまけにギター用のピックアップが付いているわ、フレットは無理やり抜かれて後を埋める処理もされていないわというナンチャッテベースだったのです。で、一生懸命練習していたなんて事は全然無くて、ただ捨てずに持っていただけ。齢30の頃、とあるバンドでベースが必要になって、そこでドラムを叩いていた男が「あいつはベースを持っていたなぁ」という事を、これまたたまたま思い出して誘われることになったのでした。ある意味ジャンケンで負けるというよりも非道い動機かもしれない。で、今に至るという訳です。


そんな私はベースという楽器はとて〜も地味なパートなのでルート音だけをコッソリと弾いてボンボンと出して居れば良いだろうと考えて引き受けることになりました。決してバンドの皆様のお邪魔にならぬよう、ひっそりと一番下の低音をハズさない程度に足して差し上げればよろしかろうと信じておりました。しかし、すぐにそれが大きな間違いであることに気付くのですが、もう後の祭り...
実際、バンドの中で演奏してみると〜...ベースの音って結構目立つんです。弾かないとスカスカになるし。オマケにボーカルはベースの音を頼りにしているらしく、歌いだしの辺りで音をハズすとモロに嫌〜な顔をされます。更に私の立場を悪くしたのはベースというパートがリズムの正確さを要求されるという事実。何とドラマーまでがベースの音を聞いていたのです。こっちはバスドラのタイミングを見ながら適当にボンッとやってりゃいいかなと思っていたのにね。
そんな訳で、ともかく今のナンチャッテベースじゃまともな音が出ないし、とりあえず楽器だけでも新調しようということになりました。
ここで何を勘違いしたか、秋葉原のLaox楽器館で大枚叩いて購入したのがフェンダージャパンのフレットレスPBだったのです。PBのくせにホローボディーでレースセンサーPUとピエゾPUが付いている、テレキャスタータイプヘッドのとても素敵な楽器なのですが、いかんせん初心者が弾きこなせるようなシロモノではありません。でもピエゾ側の音はウッドライク(※2)な豊かな低音でとても気に入ってはいたのです。でもポピュラーミュージックのスピード感と音圧感のある楽曲には合いませんな。ライブを演るとPAオペレーターに「もっと固めの音は出ませんか?」と言われるし、バンドの連中からはモケモケしててようわからんと言われるし。
あるい日、この楽器のピエゾ側の音が出なくなって故障かなぁ〜と裏蓋を開けてみたらそこには電池が...
そう、ピエゾ側はアクティブだったのでした。


で、頑なにこの楽器ではこの音しか出ないんよと言っていたらバンマスがいづこからか調達して来たのがYAMAHAのSuperBass600でした。ブッ太いネックに無骨な造り。JBタイプのピックアップが2つ付いています。そして弦の間隔が異様に広く感じます。で、ご要望に応じるべくひたすら硬い音を目指します。でもホントはパキパキの音とかドンシャリの音は好きじゃないんだけどね。
それでもベーシストは一般的に従順で真面目な努力家なのでグライコを繋いでみたりコンプを噛ましてみたり、いろいろとトライしてみたりしました。今考えると随分と無駄な努力をしたものです。そもそも機械で何とかしようという動機がよろしくありません。人生においてもそれは言えますね。様々な機械や道具を廻りに侍らせて自分がその支配者になり操ることで自らの幸福を得ようとする態度は誤りです。
では、何が必要なのかというと、それは「愛」です。私にそれを気付かせてくれたのはプロのベーシストの友人でした。愛の伝道師である彼は、「そんなことするより右手の弾き方で音なんか全然変わるじゃん」という愛のみことばを私に伝えたもうたのです。成る程、指を立ててスパッと弾けば「ビーン」という音だし、ネック側で指を寝かせてヌルッと弾けば「ボン」という音が出ますよね。愛が指先に込められれば自然とそうなって来るものだったのです。ありがとう、愛の伝道師。
愛に目覚めた私はフレットレスPBにブラックナイロン弦を張り、グライコペダルを封印したのでした。


さて、かくも無節操に色々なスタンダードなポップスをレパートリーにして行くとだんだんと近年の曲も採り入れるようになります。すると、困った問題が起こって来ます。
ある日、ある曲のベースラインを追っていると、どうしても指が4弦のマイナス何フレットか(※3)に飛んでしまうのです。ベースの4弦(1番低い音の弦)はE(ミ)なのですが、その曲はどう聴いてもC(ド)の音が出ている。ベーシストは一般的に素直ですから、4弦のマイナス4フレット辺り(開放弦よりもさらに下で丁度糸巻きのあたり)を押さえようとして指に怪我をしてしまうという危険な状況に陥ってしまうのです。音楽をやっていて怪我をしたのではシャレになりませんからとりあえず全ての弦を2音下げたチューニングを試みます。結果は悲惨です。ネックは逆反り状態になる上、それをテンションロッドを緩めて調整したところで弦は張りが弱くてベロンベロン、押さえる場所によってはフレットに当たってジャリンジャリン言います。だいたい曲ごとにそんな調整なんかやっていられません。オリジナルを演奏している人はどうやってこの低い音を出しているのだろう?
そういう思いを小さな胸に抱きながらふと目にした雑誌に載っていたベースの写真。何とその異様に幅広のネックの上には確かに弦が6本張られているではありませんか。ギターでもないのに。早速楽器屋さんに行って探してみると、5弦のものと6弦のものがあるようです。基本的に普通のベースに更に低い弦を足したのが5弦、更にそれに高い弦を足したのが6弦のようです。元々手が小さい上に指が極短というベーシストとしては最低の手ですから、あんな幅広の6弦ベースは弾ける訳がありません。5弦でも幅広いです。ところがそんな偉そうな楽器達の影でひっそりと佇むヘッドの小さな1本、それがWashburnのXB-500でした。まるで電気機関車やジーゼル機関車たちに威圧されてションボリしている機関車やえもんのように地味に、目立たないように、静かにそこに居り、その姿は自己の境遇にも似て強いシンパシーを感じました。でも良く見てみると4弦とたいして変わらぬ幅のネックには確かに5本の弦が張られています。プライスタグを裏返すと、そこには4万円と書かれています。その値段に愛を感じた私は店員を呼び、試奏にチャレンジしました。楽器店で楽器を弾くということは一般的にシャイで内気なベーシストには勇気のいることです。そっと5弦を弾くとBの低〜い音が鳴り、もうそれだけで胸がいっぱいになりました。楽器屋から帰る車の助手席には真っ黒な彼の姿があったのは言うまでもありません。


ある日、某楽器店を覗くと非常に派手な色のベースが目につきました。模様があってハデというのはありがちなのですが、その楽器は単色なのにハデという点でかなりの高度なハデさを感じさせます。その楽器を持ってステージに立てば、たとえ東京ドームの外野席最上段からでも目立ちそうです。基本的には黄色なのですが、レモンイエローのような淡い味わいではなく、しっかりと地中のミミズをつついて育った地鶏の産んだ卵の黄身のような濃い黄色なのです。しかも新品なのに定価7万5000円のところ2万5000円の売値。メーカーはフジゲン(いろんな大手メーカーのOEM生産をやっている)だからモノは悪くないし、ブリッジなんかはバダスが付いていたりします。おぉ、これで2万5000円はお買い得だなぁというのも動機の一つですが、何だかその楽器の前を通るたびに呼ばれているような気がしてならなかったのです。で、気が付くと帰りの車のラゲッジにはその黄色いPBが寝っ転がっていました。始めはネックが順反りで弦高が高く弾きにくかったのですが、あれこれ調整しているうちにかなり改善されました。音はやっぱりPBの音なのですが、トーンコントロールが良く効くし、1vol1toneというのもとても解かりやすくて良いもんだなぁと思うようになりました。それにしてもこの色ゆえに、通常控えめで存在感の薄いベーシストとしては他人に見せる時には勇気を必要とします。思い切って人に見せてみる、今までのイメージの殻を破る、勇気を出す、そうです、精神修養にも役立つのがこの地タマゴくんです。


うん、これで低い音もバッチリ出せるようになったし勇気も出たぜと思っていたらどうしてもフレットレスのジャズベースが欲しくなって仕方なくなりました。そう、あの方のようにプレイ出来たらという願望がムクムクと膨れ上がってしまったのです。勿論あの方のようにプレイなんぞ100年かかっても出来るワケがありませんね。フレットレス特有のテクニックをあちこちで聞きかじって試してみると、おぉ何とナンチャッテパストリアスではありませんか。う〜ん、気持ちよか。
実はナンチャッテパストリアスはフレットレスPBを買った時にもやってみたくてディレイだのコンプだの色んな役モノを買い込んだりしたのですが、結局挫折したのでした。でも愛の伝道師と出会ってからはそちらからのアプローチ以前にとにかく愛で奏でてみるという姿勢が大切なことを知りましたから、今回はダイジョーブ。愛があれば。


ある日、カミさんと楽器屋に出かけました。楽器屋はいいですね〜、1日居ても飽きません。店員さんと話しているウチに、是非紹介したい楽器があると言います。商売ですね〜。で、紹介された楽器というのがフェンダーPBのクローゼットクラシック仕様でした。黄ばんだ白で表面には塗装のワレが沢山入っていて、メッキ金具は適当に輝きを失っており、本当に見事に古い楽器に見えます。しかもお値段半額!。
しかし、アメリカ人ってのはなんて酔狂なんでしょう。新品なのにわざと古めかしくするっていうのは、気持ちは解からなくもないですが自分の趣味ではありませんです。やっぱり新品はピカピカの新品であって欲しいと思うので、外観がオールドな事には全く価値を感じません。それに、PBはPBの音1つしかしないと思い込んでいるので値段の高いPBはあんまり欲しいと思わないのです。
すると、店員さんはじゃぁもう一つと言ってmoonを2本出して来ました。1本は濃い目の青(レイクプラシッドブルーというらしい)のJBでヘッドも同色に塗られていてなかなかカッコ良い。もう1本は薄い空色(ソニックブルーというらしい)のごくごくオーソドックスなJB。試奏してみると、今まで弾いていた楽器はいったい何だったんだろうと思う程弾きやすい。トーンコントロールも気持ちよく効くし、結局帰りの車の後部座席には空色の彼の姿があったのです。お気に入りの楽器を手にすると、やたらと弾きたくなるのが人情というものらしく、その後はヒマがあるとベースを弾くことになるのでした。
今までは殆ど弾かなかった地卵くんなんかもよく弾くようになったから不思議なものです。


ある楽器のカタログに「ラッカー塗装」と書かれていました。ラッカー塗装ってそんなに価値の有る塗装なんかい?と思いつつ、ラッカーについて改めて調べてみました。すると、どこのホームセンターにも大抵置かれているあのラッカー、そうです、幼少の頃に工作で使っていたあのラッカーであることが判明したのです。値段も高くありません。こうなると自分で塗装をしてみたくなるのがごく一般的なベーシストの性です。
試しに結婚した頃にカミさんが買ったスクワイアーのストラトのネックを塗ってみることにしました。このネックにはいくつかの打痕があり、親指でネックを撫でると引っかかるような感じがします。
まずは240番の紙ヤスリで丁寧に塗装を落とします。そして、塗っては削り、塗っては削ること7回位でしょうか。最初はどんどん吸われるばかりだった塗料が表面に残るようになり、やがて表面が輝くようになりました。
最後の仕上げは600番の紙ヤスリを軽くかけて半ツヤ消し仕上げにしてみました。今まで無数にあったキズも消え、まるで新品のようです。おまけに撫でた感触がサラサラしていて気持ち良い。これは病みつきになりそうです。ただ、ラッカー塗装には溶剤のシンナーが物凄く匂うという大きな問題が有るのです。団地の一室でやってると頭がクラクラして来ますが、かと言って窓全開でやると近隣から苦情が殺到して住んでいられなくなりそうです。
今、超厚塗りの地卵くんをラッカーで塗りなおしてやろうかと目論んでいるのです。色は、勿論オリジナルと同じデーハーな地卵色です。


地卵くんを塗り替えるにあたって、あまりにも楽器の塗装についての知識が乏しいことに気が付いた。ここは、ひとつ練習をしてあげる必要があろうということで、オークションで古い楽器を競り落とし、それを練習台にしてみることにした。
落札したのは古いTOKAIのプレベタイプで、ヘッドにはハードパンチャーと書かれている。打つべし、打つべし...まるでスラップ(※4)されるために生まれてきたようなネーミングが悲しいやら楽しいやら。
近所のホームセンターにラッカーを探しに行ってみると、どうやらラッカーの中にもいろいろなヴァリエーションが有るようです。ポリ瓶に入ったクリアーはちょっと黄色がかっていて、「ニトロセルロース」と書かれています。カラーのスプレーには「アクリルラッカー」と書かれています。何を買って良いのやら良くわからないままに、その両方と、目止め用クリアラッカースプレー(ビニール、ニトロセルロースと書かれている)を抱えて帰宅。さぁ、作業開始。
まずネックから行きます。本体をバラバラにバラしてキズだらけのネックをキズが目立たない程度に丁寧にサンドペーパーで削ります。あまり深いキズだと消えるまでに削り過ぎてしまうから、クリアラッカーを何度か重ね塗りして埋めていきます。目止め用のクリアスプレーを吹いては削り吹いては削りとやっているうちにだんだんと木目が埋まってツルツルになりました。なかなかの出来栄え。とりあえずネックはこんなもんかな。 次にボディーのオリジナル塗装剥がしです。ネックの塗装剥がしが結構タイヘンだったので、剥離材というものを買ってきました。何だかジェル状の痒み止めみたいな、スライムみたいな...奇妙な物体を本体に塗りつけて待つこと10分....剥がれません。本当は塗装がベロベロに柔らかくなってヘラで剥がせるらしいのですが、一向にその様子がありません。よくよく缶の能書きを見るとポリウレタン塗装には使えないみたい。早々に諦めて60番のペーパーで削り落とすことにしましたが、これがもうタイヘン。何とか剥がしはしたものの、腕も肩も背中の筋肉も凝りまくってパンパンです。女房はニヤニヤしながら「根性だねぇ」と人の苦労も知らずにからかいます。
で、同じく目止めのクリアーを吹いてカラーを吹いて陰干しに。ここで焦ってドライヤーで暖めたりしては絶対にいけません。木の内部の空気が膨張して表面にブツブツと泡が立ちます。何故そんなことを知っているかというと....良い子はマネをしないように。
何度も試行錯誤の上、何とか見られる外観になりました。完全に乾燥するのももどかしく、まだチョットベタつくかなという中、部品を全部組み付けちゃいました。で、試しに弾いてみると...やっぱり何かイマイチなんですよねぇ。木の表面に制振材が塗りつけてあるみたいな感覚で、乾いた響きになりません。う〜ん、失敗かな...と思いつつ1週間程度放ったらかしにしておいて、ある日表面を見てみると、ツルツルだった表面が乾いて縮み切って木目に食い込んでいるような感じになっています。デローンと厚盛りの塗料が干からびたっていう感じでしょうか。ただし、ヒビ割れたりしているわけではありません。ためしに弾いてみると、木鳴りがしてビンビンと良く響きます。おぉ、塗装ってバカに出来ないものだわいということを正に実感。ただ、表面が乾燥して薄くなったために下地のアラが忠実に現れています。う〜ん、下地処理ってとっても大切。もういちど細かいペーパーがけからやりなおすか悩むところではあります。
で、ここまでやってボディーの剥がしのあまりのタイヘンさに地卵くんの塗りなおしにとっても腰が退けています。(笑)



ここまで駄文にお付き合い頂いてありがとうございました。続きをご覧になりますか?
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※1 「俺はジャンケンじゃなくてアミダだったゾ、全てがジャンケンで決まる訳じゃナイ。
   バカにするな。」とお腹立ちになった方はこの後を読まない方がイイかも。
※2 コントラバスを指で弾いたようなボンボンとした音程のハッキリしない音。
※3 通常左手で何も押さえずに弦を弾いた時の音を「ゼロフレットの音」と言います。
   それより低い音、マイナスフレットなんか有る訳無いよね。
※4 スラップ:叩きつけるというような意味。親指で弦をゲンゲン叩いて弾く奏法。
   別名チョッパー奏法なんて言うこともある。叩くだけじゃなくて、その合間に
   弦を摘んで引っ張ってゲーンと弾く奏法も挟むと効果的