ベースアンプについてのおハナシ



ベーシストというものはとかく有りもの(※1)で間に合わせるように言われることが多いのです。この点ではいつも、主張の強いギタリストがマイアンプを持ち込んだり、ズラーッと並んだ踏みモノを広げたりする様子を指をくわえて見ているという寂しい状況にあります。
ライブをやる時も、ギターはアンプから出た音をマイクで拾ってPA(※2)のスピーカーで出すのに対して、ベースの場合にはベーアンに入力する直前でDI(※3)という装置によって分岐させられ、そこからぶん取られた信号をPAのスピーカーから出します。だからベーアンから出ている音=お客さんが聞く音では無い訳で、音色の決定権は演奏者には無いのです。最近はマーカスミラーとか、ソロアルバムが売れるようなベーシストが出てきて少しずつ状況が改善されつつあるようですが、そういう有り難い待遇が受けられるのはほんの一握りの偉い人だけなんです。
ここで、一つ疑問が湧いてくると思うのです。即ち、アンプってのは入力信号を忠実に増幅してスピーカーから出すもんじゃ無いんかい?
この疑問、「入力信号を」までと「増幅してスピーカーから出す」以降は全くその通りで正解なのですが、「忠実に」の部分が大きな誤りなのです。試しにベーアンでCDを聴いてみてください。ギターアンプよりはマシにせよ、全然HiFi(※4)じゃ無いことは一聴瞭然。
音楽というものはシステムトータルで考えなければいけません。ベースに限って言えば、楽器+ベースアンプによって創出された音色がベースの音ってこと、つまり、ベーアンも楽器の一部と考えなければならんのです。
PAシステムは入力としてボーカルあり、ドラムスあり、ギターあり....とにかく何でもアリですから基本的にはそこで色づけがあってはいけません。だからPAはHiFiなので、そのHiFiのPAから出ているベースの音とベーアンから出ているベースの音に大きな隔たりが出来るのです。
何故ベーシストがそんな冷遇を受けるようになったのか?それにはちょっとした歴史が有るのです。エレキベース以前のハナシ、そもそもベースの基音なんてのはかなり低いところにあるので、音程を感じにくい。じゃぁチョット位外してもわかりゃせんわい。ならバンドで一番ヘタな奴にやらせよう。ま、ハデにボンボンやってりゃいい(※5)からさ。リズムさえ外さなきゃね。
と、全てはここから始まって未だに人々の心の奥底にベーシストを軽んじる感情がくすぶっているのです。昔のベースアンプなんてのは結構悲惨なもので、ベースアンプとは名ばかり。ギターアンプからリバーブやらトレモロやらを取っ払ってスピーカーをウーハーに変えればハイ一丁上がりってなもんです。だから昔のベーアンはモケモケした音でボンボン言わせる分にはいいかもしれませんが、近代的な演奏にはじぇんじぇん向きません。80年代、フュージョンブーム以降そういう事に気付いた人たちが沢山居て、ハイファイなベーアンプのニーズが出て来て、そして多くの製品が巷に流通する有り難い世の中になりました。

という訳で、そういう最新のコンテンポラリーなアンプを試してみたいじゃありませんか。ところがそこには大きな問題が。ベーアンってデカイのです。とても日本的4畳半に置けるようなモノじゃございません。やっぱり有りものでやらにゃいかんのかなぁ....と諦めかけていると、コンボアンプ(アンプとスピーカーが合体しているヤツ)でもそういうコンテンポラリーな製品がいくつか有ることを知ります。
でも小さなベーアンって難しいんです。というのは、出力が小さくて音が悪い屑アンプが非常に多いんです。そんな中から見つけたのがSWRというメーカーのworkingman's10という製品。店頭で試し弾きしてみると、まさに掃き溜めに鶴!手で持って歩くことも出来る(けど結構ツライ)大きさ&重さ。これだ、コレしかないゾ!

早速近所のライブハウスで試して見ます。他のベーシストからも好評です。今まで聞えなかったベースの音が輪郭も鮮やかに聞えます。でも音圧はいま一つかな。何せ10インチスピーカー1発+ツイーターですからそんなに低音が出る訳が無いです。う〜ん、80ワットじゃ足らんのかなぁ?と想いつつも今度は練習スタジオで試してみることにしました。練習スタジオにはHARTKEの大きなスピーカーボックスが有ります。このHARTKEというメーカーも近代的な歪まない音がウリなのですが、そのスタジオに有る同じくHARTKEのアンプとの組み合わせでは今一つピンと来なかったのです。で、workinguman's10の背中にある増設スピーカー端子からその4.5という大きなスピーカーボックスに繋いでみました。すると、本体だけでは到底得られない大きな音、しかも輪郭ハッキリクッキリが得られるじゃあ〜りませんか。これはもう感動モノです。アンプのボリュームも12時位の位置でウルサイ程の音が出ています。ドラマーからも「全然違う。ベースの音が良〜く聞こえる」と大好評です。
更にエフェクターの効果がはっきりと聞えます。歪みっぽくてモケモケした音のアンプではその強烈な個性に吸い取られてよくわからなかったエフェクターのエッジの効いた音が明瞭でこれはもう感激ものです。


さて、そういった訳で増設のスピーカーボックスが欲しくなるのですが、大きなものは置けませんし、小さくて良いものがなかなか無いのです。カタログに載っていても市場に無かったりするのです。う〜ん、自作するしかナイのかなぁ。

このworkingman's 10というアンプはトーンコントロールがとても良く効きます。それこそ古臭いモケモケの音からドンシャリの音まで変幻自在です。
エフェクターへの送りと戻りのジャックが装備されていて、生の音との混ぜ具合を調節出来る仕組みもこのクラスにしては珍しく、良く出来ています。それと、チューナー送りジャックがあるのもマルです。
前にも話した通り、ベースの音はDIで分岐されてPAに行く事が多いのですが、このアンプにはそのDIの機能も備えられています。アンプの背中にはキャノンの端子があって直接PAへ送ることが出来るのです。DIというのが結構曲者で、メーカーや型番によってかなり音色に色づけがあるのです。だから有りもののDIを使わずに済むのは有りがたいことかもしれません。
ヘッドホンジャックも装備されていて、背中のスイッチ切り替えで本体からの音を消し、ヘッドホンだけで聴くことが出来るようになります。自宅練習用途にも使えて、しかも自宅で予め音作りが出来たりしてとても良いことだと思います。
スピーカーの前面のグリルが鉄製の頑丈なものでこれも持ち運ぶのには美点です。
本体はとてもガッチリとした造りのキューブ型で安心感があります。筐体の底には本体を斜め上向きに設置するための足がセットされていて、これは持ち上げると自動的にバネの力で本体に格納されるようになっており、重宝します。ただ、もうちょっと角度が付けられた方が有りがたいです。このアンプは真空管ではありません。ベーアン自体は基本的にはソリッドステートの方が良いと思うのですよね。真空管の歪み(※6)が欲しければチューブプリアンプを繋げば良いことですから。ちなみに、私はARTのTubePacという真空管コンプレッサーを使っています。
電源コードはアース付きの3極で、これを2極に変換するアダプターは付属していませんでした。一緒に購入しておいた方が良いでしょう。


この他にフェンダージャパンのBC20という小さなベースアンプも持っていて、それも店頭で他の同クラスのアンプの中で群を抜いて音が良かったし安かったので購入したのですが、思えば最初からworkingman's 10にしておけば良かったかもしれません。
でも、ライブや練習に持ち込みを考えないならばBC20の方がオススメです。良く初心者用と銘打って安いアンプが店頭に並んでいますが、安物の音の悪いアンプよりはBC20位のものを買った方が絶対に良いです。小さな音でもちゃんとベースの音がするところが最大の美点で、国内メーカーという安心感もあります。
練習の時にもタッチと出音の関係を理解するためにアンプを通した音を聴いた方が良いです。


ベースアンプについてのおハナシ2



ベーシストはライブの時にアンプの持込はしない、ハコに有り物のアンプで何とかする理由は他にもあります。
なぜならば..デカくて重いから、すなわち所有していても部屋に置けない、あるいは家人から猛烈な反感を買うという切実な事情に加えて例え所有していたとしてもライブ開場に運搬するのが非常にかったるいということなんです。
しかも、しかもです、よしんば家業が職人関係でハイエース(はい、機材車と言えばまず頭に浮かびますね)が自家用車で運搬車に事欠かないとしても、搬入・搬出を誰が手伝ってくれましょうや?
フツウに40kg、50kg、それにヘッドが10kgとか20kgとか有りますから当然一人では運べず積み降ろしは誰かの手を借りることが必然なのであります。
会場側での積み降ろしはまだよろしい、それなりにいやいや乍ら手伝わざるをえない人の一人や二人は居ましょうが、自宅側での積み降ろしを如何にせんとや??
そんなこんなで大きなベーアンを所有することはかなり困難なのではありますが、あの大きなキャビネットから出てくる超低音、まさに風が吹くようなブワッと膨らむ低周波に胸も膨らむ訳でして、夢捨て切れず..
ちなみに我が家にはHartkeのHA-3500というヘッドが有りますが、自宅では何の役にも立ちませんので行きつけのライブハウスに置いて使って貰ってます。
問題は、ヘッドが有るもんだから、どうしてもキャビネットも欲しくなる事でございましょうか。
でもね、もし買って帰ったら確実にバレます、怒られます、コロされます。



※1 その場にあるもの。人生にはこの姿勢が大切だと思う。
   とは思うが、限度というものもあろう。
※2 パブリック・アドレスの略。ぶっちゃけて言えば拡声装置のこと。
   学校にある放送室のあの装置もPAだし、東京ドームライブの時に舞台の袖にドーン
   と積まれたスピーカーやらアリーナ席にドドーンと陣取っているミキサー等もそう。
※3 ダイレクト・インジェクション・ボックスの略。ベースのようなハイインピー
   ダンスかつアンバランスの出力をPA卓向けにローインピーダンス・バランス出力
   に変換する装置で電源の必要なアクティブ型とトランスが入っているだけのパッシブ
   型がある。性能も価格も千差万別で、数千円から十数万円までいろいろ有る。
※4 ハイ・フィデリティーの略。1980年前後の空前のオーディオブームの時に盛ん
   に使われたが、ミニコンポ主流の現在では死語か。
   ただ、必ずもハイファイ=良い音ではないところが難しくも奥深い。
※5 これが誤りであることに当時から気付いていたのはたぶんアカペラグループのベース
   パート担当の人だけだと思う。
※6 何でもかんも真空管を使えば歪みが多くなる訳ではない。
   真空管って結構誤解されていると思う。